天使の涙 - ウォン・カーウァイ監督

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 最近ブルーレイが発売されたので購入。当たり前だが、映像が滅茶苦茶クリアになっていて非常に感動する。

 前作である「恋する惑星」と兄弟のような作品だが、惑星よりも監督の色は強くなっていて、何というか格好良いシーンの格好良さも上がっているものの、見辛いシーンの独りよがり感も強くなっており評価が難しい。が、僕はやはりどちらかというと本作が好きだ。

 いずれも一癖有る5人の男女の顚末が、夜の香港を舞台に描かれる。赤やオレンジの光が渦巻く中で描かれる現実感のあるようなないような話は、監督独特の奇妙な画面の構図やカット割りも相俟ってとてもクール。しかし前述したようにクセも強く、その一つがやたらに魚眼レンズでの接写シーンが多い事だと思うのだが、特に金城武が親父をビデオに撮るところで多用される手振れしまくる接写は、結構時間も長くてきつい。お話的には良いシーンなのだが。

 とはいえ、殺し屋のウナギの寝床みたいな細長い隠れ家を、手前にカメラを置いて奥に向かって撮っている場面(更に言えば、画面の右半分は部屋の外の風景を映している)や、冒頭で2回繰り返される誰もいない駅と長いエスカレーターの場面、殺しのエージェント女がパスタを食べている後ろで乱闘している場面など、とても印象的な絵面がたくさんあって、基本フワフワしている脚本を何となく追いながら次々出てくるそれらをボーッと眺めていたら最後のシーンでやっと太陽の光が出て来て、あー何だかんだで、でもとにかく、夜が明けたなーという奇妙に爽やかな後味が残る。

 ウォン・カーウァイの、都市と、そこで寄る辺なく生きる若者達の距離感やシニカルを、直球のファンタジーにはギリギリならない範囲で抽象的に描き出すバランス感覚はやっぱり凄い。アジアならではの熱っぽい、原色の喧騒と孤独。あと90年代という時代の雰囲気も、今見ると確かに畳み込まれている様に思う。

 というわけで、どうしても後半パートに依存している感のある「恋する惑星」より、一本としてのまとまりや監督の独自性が更に追究されているという点でこっちが上かなという感じ。ただ最初に書いたように、その分こちらの方がアクも強いけど。

 しかしいつ見てもエージェント役のミシェル・リーは良い女過ぎてびびる(そういえば彼女がビニールっぽい素材の服を良く着ているのも本作のSFっぽい雰囲気に多大に貢献していると思う)。あの瞳が見える見えないギリギリの前髪の感じが凄い好み。また、殺し屋役のレオン・ライも最近の韓流俳優の様な出で立ちで全然古さを感じさせないし、そんなに可愛くない上にチャイナドレスに金髪というほとんどダサいコスプレのようなカレン・モクもこの映画の中ではなぜかたまらない。この辺のキャスティングや衣装のセンスも含めて、これを20年近く前にリアルタイムで見た人達はそりゃぶっ飛んだだろうなと思う。音楽はややダサイが、しかしこれ以外無いという感じでとてもよく似合っている。特に下のトレイラーの曲はまるでマントラみたいで非常に良い。

 本作が製作された数年後に香港という街は中国に返還されるわけだけど、いまでもこのような匂いがあるのだろうか。

 ダラダラ書いていたらやっぱり「恋する惑星」のディスクも欲しくなってきた。この二作は「やはりセットで所有したい」という煽りが強い。


FALLEN ANGELS - Trailer ( 1995 ) - YouTube