月に囚われた男 - ダンカン・ジョーンズ監督

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  デヴィッド・ボウイの息子であるダンカン・ジョーンズのデビュー作。近未来、月の採掘場で働く孤独な男の話。基本的にずっと一人芝居であることや、とても静かな月面が舞台ということ、更に間の取り方などの演出面も含め、全体にとても静謐な雰囲気。見だしてすぐに思い出したのは「ガタカ」。両作とも、近未来SFながらどこかクラシックな雰囲気がある。


映画『月に囚われた男』予告編 - YouTube

※以下、結末に触れています。

  脚本が良い。「クローン人間の悲哀」という題材が丁度同じ頃に見た「わたしを離さないで」と偶然にも同一だったのでどうしても比較しながら見てしまったが、こちらの方が一枚上手だったように思う。世界観に対する説明やエクスキューズがさり気なくしっかりしているので、突っ込みどころなく、物語に入り込みやすい。

 三年という肉体の寿命が近づき、もうボロボロのサム一号が妨害電波の範囲から出て車の中で成長した娘と交信するシーンは結構グッと来た。あと、ラスト近くまで敵か味方かよく分からないガーティが結局、本物の友達だったと分かり、サムを守るため自ら再起動を願うシーンもとても良い。

 尚、最後の最後サム2号が地球に向かう時に流れる「物語のその後」をさっくり示唆するアナウンスは余韻ぶち壊しということで否定的な意見が多いが、「クローンを完全に道具としてしか見ていない世の中など(逆に)ありうるか?」という疑問に対する見事な補足になっていると思うので、個人的には大いに賛意を示したい。最後にあの一文があるだけで物語世界の強度が大きく増しているし(「わたしを離さないで」にもこれがあればな)、何よりも、グレーというか、曖昧な形で終わればそれが豊かだというのは端的に古いと思う。

 静かで丁寧で、まさしくウェルメイドという言葉が相応しい佳作。監督からボウイの息子という枕詞がとれる日も近い気がする。