アイガー北壁 - フィリップ・シュテルツェル監督

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 暑い。涼しい映画を。

  冬山登山もので実話ベース。1936年当時のナチス体制下、アルプスのアイガー北壁初登頂に挑んだドイツ人男性2人が主人公。角度90度以上、天候も急変する死の壁を文字通り死にものぐるいで登攀する主人公達と、その格闘ぶりを麓のホテルからワイン片手に眺めるセレブやマスコミ達の対比が印象的。

  今作を見てまず思ったのは、山岳映画ってやはり圧倒的に製作が困難だろうなという事。メイキングを観ていると後半の雪山は結構CGを多用している様だが、主人公2人の冒頭の登攀シーンは本当に崖で撮影していて、これを観ると役者も撮影陣も命がけ、よくあんな所でカメラ構えていられるなと思う。

 物語の要素として、「北壁登頂を国威発揚に利用しようとするナチス」「話題になりそうな事しか追わないマスコミ」「主人公トニーと幼馴染みの女性記者とのロマンス」などがメインの登攀以外にも含まれているが、これらを描く事に前半1時間を使っているために、本格的な登攀シーンに入るまでがやや冗長に感じるのは残念。しかもその割に、特にロマンスに関しては明らかに描写不足で、従ってクライマックス辺り、トニーを心配して雪山で一晩過ごしさえするヒロインに全く感情移入できないのは辛い。

  などと文句ばかり書いたがメインディッシュの雪山登攀シーンには、それを補って余りある迫力があり、たるい前半を吹き飛ばす異様な興奮に満ちている。良作。

  しかし冬山登山というのはもの凄い。以前から薄々思っていたがやはりあれをスポーツとは思えない、どう考えても信仰(それもとても敬虔なやつ)に近いだろう。特に、回収不可で腐敗もしない先人達の遺体が愛称を付けられルート上の目印となっている、などという話を聞くと、端的にそれは巡礼ではないかと思う。


映画『アイガー北壁』予告編 - YouTube