菊次郎の夏 - 北野武監督

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 たけしらしいとか言えるほど彼の映画を見ていないが、ソナチネなんかでも印象的だった全体的に抑制の効いた冷ややかな感触は、やはりらしいなあと思う。あと、専用のそれらしいセットまで用意して麿赤児に舞踏をやらせたり、本人もうっすらタップをしてみたり、物語自体はごくオーソドックスなだけに、そういうたけしならではの映像やイメージの遊びが余計際立っていた。だけどそういう人だと知っていて見ているからだろうが、必然性こそ感じないものの特に違和感も無かった。それに題材が題材なだけに、この人のヤクザ物なんかにいつも色濃く漂うストイシズムや虚無感というよりは、ノスタルジーや儚さみたいなものが色濃い中にそういう遊びを散りばめているのが、何というか正に「自由な夏休み」という雰囲気でとても良かった。

 脚本的にも、通常はクライマックスとなるであろう「母親に会う」瞬間が本作では中盤で訪れ、たけしや旅の途中で会う奴らとのファンタジックなリハビリとも言うべき「その後」がダラダラと映画の後半を占めているが、これもなかなか淡々と優しい感じで悪くない。

 菊次郎が途中で正男に「お前は俺と同じだな」と呟くシーンがあったけど、母親を目撃してからの映画後半、菊次郎が不器用ながら精いっぱい正男に楽しい思い出を作ってやろうと奮闘するのは、おそらく過去の、似たような思い出のある自身の少年時代を埋め合わせる行為でもあったのだろう。正男を笑顔にすることで、菊次郎の中の澱みもまた少しずつ晴れていく。いやむしろ最終的に救われたのは菊次郎の方ではないのか。だからこそ本作のタイトルは「菊次郎の夏」なのだろう。

 そんな事を考えながら最後の別れのシーンを見ていたら、菊次郎が一瞬正男を抱きしめる場面で結構グッと来てしまった。

 バイクの2人組絡みのギャグシーン等若干しつこいかなという場面もあるものの、全体としては淡く美しい夏の少年譚としてとても良作だと思う。掘っ立て小屋みたいな田舎のバス停とか夏祭りのテキ屋のような風情のどこか後ろ暗い雰囲気を残した撮り方も好きだった。

 何か、日本版の予告編が無かった。ピアノ演奏ばっかり。


Kikujiro (Trailer) - YouTube