女と男のいる舗道 - ジャン=リュック・ゴダール監督

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 ゴダールは(正直難しくて!)余り見ていないのだが、本作は分かりやすくて好きなので映画棚の箔つけも込めて、最近発売されたブルーレイを買った。今作の頃はゴダールとアンナ・カリーナのつき合い始めだったっけな。「○○のミューズ」という言い方を僕が初めて聞いたのも、この二人についてだった気がする。

 平凡な家庭の奥さんだった主人公ナナは夫と子供を捨て、女優を目指してパリに出て来るがやがて街娼に身を落としていく。というプロットは古典だが、カフェのカウンターで会話している人物をずーっと背面から撮ったり(向かいの壁にはめ込まれた鏡には、ぼんやりナナの姿が写っている)、演技なのか素なのか分からない限りなくナチュラルな雰囲気、環境音のノイズ、やたらに気の利きまくった台詞の数々と、おおゴダールと言った雰囲気満載で、これが食べたくて鑑賞している身としては充分に満足。バッサリ終わるラストも良い。
 アンナ・カリーナがジャンヌ・ダルクの映画を見て涙を流す場面が有名だが、冒頭のアンナの横顔連打や、手紙を書くシーンで自分の身長を手の平で測る場面(しかも最後の一歩だけなぜか凄い変顔になるカリーナ!)、ビリヤード場でのダンスなどもとても可愛い。あと、娼婦に身を落としてからのナナが着てる黒い?コートが凄く格好良い。今作は(ゴダールにしては)比較的物語がはっきりしていて見やすいという評判通り、とてもポップな良作だと思う。
 ゴダールというと熱烈なファンやアンチが多い事で有名だが、確かにこの画作りや編集のバランス感覚、特に会話シーンの独特な視線やリズム感みたいなものに不思議な中毒性があるのはよく分かる。何だろう、一見すると素人でも撮れそうなシンプルな作り、絵面なのに、やってみるとやっぱり誰にも真似出来ない、もしくは逆に凄く陳腐な物真似にしかならないような、そういう絶妙さだろうか。

 83分というお手軽な上映時間も相俟って、急にたまらなく見たくなる時がある。


Blu-ray『女と男のいる舗道』30秒CM - YouTube