悪の教典 - 三池崇史監督

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面白かった。原作小説は未読。若く男前で人望も厚い英語教師蓮実が、文化祭前夜に生徒達を殺戮する。伊藤英明は初めてまともに見たが、鍛え上げられた肉体やパット見お人好しそうな表情に鮫の様な目が張り付いている顔つきなど、非常にはまり役で素晴らしかった。
学校教師ものにありがちな様々な要素が、今作でも多く語られる。生徒や教師それぞれの立場でのヒエラルキー、イジメ、裏掲示板、カンニング、不良生徒、モンスターペアレント、脅迫と肉体関係、淡い恋等々、、、しかし本作は勿論金八先生ではない。それら複雑に絡み合いあるいは独立した全ての要素、その解決も未解決も気持ちも行動も一切はラストの30分で、まるで無差別に蹂躙される。
蓮実は巧妙に仮面を被ったサイコパスであり、善悪の概念は無く、また快楽殺人者でも無く、ただただ自分の欲望や理想の邪魔になりそうな人間を何の躊躇いも無く排除していく。良い奴も悪い奴も好意も悪意も男も女も大人も子供も生徒も同僚も、彼の世界では皆平等であり、ただ邪魔か否かという極めてシンプルな基準にてのみ生死の審判は下される。この文字通り悪魔的な公平さによって何の躊躇いも無く虐殺が行われるクライマックスには、普段誰もが心の底に押し込めている、邪魔だったり面倒くさい要素をいっそ一気に排除できたらというどす黒い願望を強烈に満たす、得も言われぬカタルシスがある。
逃げ惑う生徒達の阿鼻叫喚以外には愁嘆場も説明も無く、もう出会い頭にどんどん殺していく、そのまるで感情を感じさせないスピード感なんかは特に三池監督の本領発揮という感じで小気味良く、また蓮実がテーマソングとしていて、劇中でも印象的に使われるマックザナイフの陽気な旋律とも見事にリンクしており素晴らしい演出。唯一、「校内に猟銃持ちの不審者が侵入した」というアナウンス後の生徒達が何というか、いわば急に戦闘モードに突入するのは不自然に見えたが、それ以外は作品世界として特に秩序が乱されていると感じる点も無く、物語前半に仕込まれる幾つかの伏線も意外性こそ無いもののきっちり回収される。

というわけでクソみたいなエンディングテーマを除けば、完成度の高い快作だと思う。
しかし教典という言葉が入ったタイトルや高校という舞台、また主人公の設定などから見ていてデスノートを思い出した。ずば抜けた能力を有しつつ究極に独善的であるというダークヒーローの存在感は、どんどん潔癖になりつつある世の中においてますます増していく様に思える。


映画「悪の教典」 予告編 - YouTube