暗戦 デッドエンド - ジョニー・トー監督
今作は監督の熱いギャングものなんかと比べるとサスペンス要素が強く、ノワールっぽい濃厚な雰囲気はあまり無いが、反面都会的なクールネスと一匹狼同士の駆け引きや交流がより際立つ。文句無く傑作。アンディ・ラウはインファナルアフェアを観た時はルックスがあまりだと思っていたが、本作ではとても格好良かった。
上にも書いた通り主人公二人の駆け引きや頭脳戦が一番の醍醐味だが、まずそのトリックというか、仕掛けの部分の脚本がとてもよく出来ているので見ていて興醒めする事が無い(この手の作品でここが弱いのは致命的だが結構そういう作品も多い)。強いて言うならアンディの女装関連は無理があるがあのパートは半ギャグとしてまあ、ご愛敬で済ませられる範囲だと思う。
主人公二人とも見事な演技でそれぞれの役をこなしているが、特にヒーロー・ネバー・ダイでは葉巻を咥えていたラウ・チンワンが素晴らしい。三枚目で、またクールに徹しきっているような性格でもないが地頭がとても良く、柔軟な正義感を持ち、アホな上司は適当にあしらうユーモアと何よりも行動力がある。インターポールの美女にモテるのも納得の、本物の良い男をとても的確に演じていた。改めて、香港は素晴らしい役者の宝庫だ。
あと書いておきたいのは、アンディがバスで出会う美女とのエピソード。物語本編とは独立したこの小さな挿話がアンディの孤独や背負った運命の悲哀をとても柔らかく描き出す。サスペンス部分だけでなく、このような部分の描き方やその溶け込ませ方まで含めて、本当に上手い。
緊張感漲る鋭利な脚本の中で、二人の男の立場を超えた共感が胸を熱くする。これだけの内容が畳み込まれて90分というランタイムも凄い。一切の無駄も過剰も全く無く、しかし映画としての余裕というかハンドルの遊びというか、豊かさはたっぷり含まれているというバランスは本当に稀有だと思う。