殺人の追憶 - ポン・ジュノ監督

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 実話を基にしたという韓国の作品。サスペンスとかミステリー映画史全体の中でも、十指に入る傑作ではないだろうか

 全体的に暗く若干緑がかった画面や、要所では雨が降り注ぐ事、無惨な遺体を印象的にチラ見せする等の雰囲気はデヴィッド・フィンチャー、中でもやはりセブンを思わせる。一方、舞台となる村の広大な田園風景は殆どリリィ・シュシュだ。特に後者に関しては監督が意図的にサンプリングしたかどうか定かではないが、とにかくそれ位の高い意識に貫かれた美しい画作りは、猟奇殺人事件というテーマに当然の様に合いまくる。

 田舎のチンピラ刑事と都会のインテリ刑事が反発しあいながらも事件を追うというプロットは古典だが、シリアスとコミカル(韓国ではドロップキックは主流の攻撃手段なのだろうか)のバランスや緊張感の緩急が徹底的に練られた脚本に、観ている側はもうどんどんと引き込まれていく。

 冒頭書いた通り実際にあった事件を基に製作されているという本作だが、個人的に思うのは、この映画はオリジナリティーやリアルさで魅せる類の作品ではなく、誰もが知っている映画的な見せ場や雰囲気をもの凄く巧みに解体・再構築した映画だと思う。なので、特にリアルさを期待して観た人はこの「映画的な演出や筋書」が大仰なご都合主義に見えてしまうかもしれない。しかし、この明快な脚本・人物描写は、本作を観て監督のポン・ジュノを「黒沢明の孫が韓国で生まれた」と言った評者がいた事も悔しいながら納得がいくほど、とても快活で力強い映画的興奮に満ちている。

 脚本・演出・編集・音楽・役者の演技などすべてが高次元でガッチリと組み合わさった傑作。時代を超えたオーソドックスな一本になると思う。ラスト、ソン・ガンホ(この作品で初めて知って、今では大ファンです)の表情が湛えるものは余りにも複雑で豊かだ。


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