美しい日々 - バルテュス

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先日、上野にバルテュス展を観に行った。

暗い室内の椅子にだらりと腰掛ける少女、猫。手鏡。展覧会には結構風景画なんかもあってそれも決して悪くなかったような気はするが、全く印象に残っていない。

奇妙にねじ曲がったようなポーズや、ベタッとしてまるで奥行きを感じさせない平面的な構図・色合いによって描かれるバルテュスの少女達には恐ろしいような懐かしいような違和感があって、しかしその違和感こそが正しく対象を見つめている証左のように感じられるから不思議だ。予め現実からずれているような。

絵の中の彼女達は退屈を持て余し、そして自身の魅力の前には全ての男達が、ひいては世界がわけもなくひれ伏すであろうことをさも当然のように理解しているふしがある。それは大変危険な退屈しのぎであり、しかしその危険の重大さには気付かず踏み出せてしまう幼さ故の無知すらもまた、彼女たちの魔力の一部に過ぎない。その力はやがて少女達自身の個別の輪郭をも大きく超えて、世界に漏れ出していく。バルトュスが生涯に亘ってキャンバスに捉えようとしたのは、その全貌なのではないか。そんなことを思った。

というかバルトュス、「小さな悪の華」絶対好きだったろうな。

展覧会なかばにある本人のアトリエ再現もかなり気合いが入っていて見ごたえがあった。天井が高く大きな窓のある木造の空間に絵の具や羽織や椅子が置かれている様はまさに彼の絵そのものの色合いと雰囲気であり、展覧会のコースの中で良い箸休め兼変化球になっていたと思う。特にあの大きな窓の下の絵の具机は運搬も再現も大変だったと思うが、主催側の気合いが感じられた。

あと印象的だったのが最後の売店コーナーに、老年期に入りスケッチをしづらくなったバルトュスがその代わりにしていたというポラロイド写真を集めた写真集が凄く高い値段で売られていたのだが、それが夢の様に綺麗だった。モデルの姿を収める角度や入り込む光線の雰囲気など非常に美しく、あらためて画家の視点の鋭さが滲む。あれの廉価版あれば買ったのにな。幾らか忘れたけどとても買えない値段だったことだけ覚えている、、、

などと思っていたらこんな写真展が別会場で開かれていることを今発見した。世の中うまくできてんなー。

バルテュス最後の写真 ―密室の対話

http://mimt.jp/balthus/