トト・ザ・ヒーロー - ジャコ・ヴァン・ドルマル監督

f:id:when87:20130921130829j:plain

 フランス映画。TSUTAYAの発掘良品棚で何気なく手に取ったのだけど、傑作。
 観る前は如何にもフランスな、直球の「妖しい少女」系かと思っていたが、実際はなかなかのごった煮映画だった。ミステリー要素や、ギャング映画っぽい長年に渡る男同士の愛憎入り交じった関係なんかも出てくる。とはいえやはりあらゆる要素は結局ファム・ファタールとしての蠱惑的な少女、アリスに収斂していくのだけど。
 養老院で孤独な余生を過ごす老人トマは、残された時間で金持ちの幼馴染みアルフレッドを自らの手で殺す事だけを考えている。彼は少年時代、姉のアリスと過ごした時間を回想する。

※以下ネタバレしてます。

 上述したように色んな要素がごった煮で詰まっている上に、時系列も少年期・青年期・老年期を往き来するので分かり辛くなりそうなところを、脚本が上手くすいすいと読ませる。
 単なる大好きな姉というラインを大きく超えていたアリスを、自分の言葉がきっかけで死なせてしまったトマ。その罪悪感をも織り込んで、彼の中でアリスは文字通り永遠で絶対の存在として焼き付いてしまう。しかしその十字架を科されているのは、子供の頃からあらゆる面で彼の先を行く憎きライバル、アルフレッドもまた同じだった。
 そもそも赤ん坊の頃には裕福さを奪われ、少年時代には姉を奪われ(と思い込んでいる)、また青年期に出会って心を通わした姉そっくりの女性はそれもそのはず、何とアルフレッドがアリスに似せて作り上げたものだった。しかし老境において、自分の人生が空っぽなのはお前のせいだと恨むトマと対峙したとき、当のアルフレッドはこう言うのだ。「ずっとお前が羨ましかった」と。
 そしてラスト、アルフレッドの身代わりとなって死ぬ事を選択したトマは遂にアルフレッドとなり、そして同時に自身が思い描いていた理想の存在、トト・ザ・ヒーローをもその身に引き寄せる。最後の最後で自身の人生を取り戻した彼は、遺灰となって遂に憧れの車に乗り、飛行機に乗って空を飛び、大いに笑う。映画はいよいよ終わりに差し掛かり、少年時代、パパやアリスと一緒に歌い踊った陽気な曲が聞こえてくる。
 しかし本作のアリスもそうだが、フランス映画での少女性というのはなぜあんなにも悪魔的な魅力を以て描かれるのか。不敵に世界を嘲笑い、まるで自分達が世界で一番美しいのだということを予め知り尽くしているかのような、少女達。邦画や米画ではまずお目にかかれないあの人外さって何なのだろう。


Toto the Hero - Trailer (1991) - YouTube