渋谷慶一郎 Playing THE END at 表参道スパイラルホール(2013.12.28)

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今年のライブ納めとして渋谷慶一郎のピアノソロコンサートに行った。会場は表参道の瀟洒なビルの三階のホールで、同ビル一階のカフェも、広くてピアノがあって、印象的だった。

舞台演出は去年のfor mariaコンサートと同じ様な感じで、中央に要塞のようなピアノブースを置いて、周りを客席が囲む形式。僕は今回入場が遅かったので余り良い席を確保できず弾いてる演者の姿がほとんど見えなかったのだが、一番通路側だったので足を投げ出して座る事が出来たのは楽だった。隣席の女性は、大きな帽子と毛皮のコートをずっと膝の上で保持しながら鑑賞するのが他人事ながら大変そうだった。

最初の一音でとても驚いた。それは美しいとも違う、繊細とも違う。音量は小さく、というかそもそも、今ここで弾かれている生音とは思えない。そういう不思議な音色。そういえば今回はPCもセッティングされていたので何らかの加工を施したものを出力しているのだと思って暫く聞いていたが、その内(当たり前だが)それこそ今ここで、ピアノを弾いている渋谷さんが見えた。

例えばfor mariaというアルバムは、誰かがすぐ隣で弾いている様な感触を目指して作ったそうだ。またいつかのインタビューで、特にピアノのコンサートでは、自分の家のリビングで何気なく弾いているような雰囲気をそのままステージに持ち込みたいという事を言っていたが、今回の音作りを聞いていよいよその究極に近づいていると感じた。派手さや後付けの煌びやかさみたいなものの全くない、柔らかくて優しく、すぐ傍で鳴る音。いつも思うのだがこれだけテクノロジーの先端を駆使して製作をしている渋谷さんのコンサートや音源の音色にはしかし、往年のアナログレコードのような柔らかさがいつもあって、僕は何よりそこの成分の中毒になっているのだと思う。それはノイズだろうがピアノだろうが、ある。

前編ラストのはじまりの記憶と、後編開始のブラームス、あとはアンコール一発目のfor mariaが特に素晴らしかった。あの曲は何度聞いても何かが反転するような感触がある。