八本脚の蝶 読了

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知っていた結末とは言え、やっぱりとても悲しい。

最近この本の事を知って昨日初めて読み終えた自分には、まるでつい最近の出来事の様な気がしてしまう。ここに書かれている通り本が世界の似姿であるなら、それは勿論人間でもあるだろう。知りあったばかりのとても魅力的な人が、その出会いの喜びの矢先に消えてしまったような。

最後の方には何度も怖いと書かれていて、読みながら、深淵をのぞくときには深淵もまたこちらをのぞいているのだという有名な一節を思い出していた。きっとそこをのぞき得てしまえる者にだけ要求される代償があるのだろう。

それにしても惜しい、本当に。彼女が亡くなってからの10年間でネットや書籍やコミュニケーションのあり方も随分変わったけど、結局、どんどんいたずらに深くなる森の中で、美しい言葉や物語への導き手はより一層必要とされている気がする。

以下は最後の日の記述より引用。

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最後の魔法のおかげで世界はとても綺麗です。
私は生きている間。時々、一瞬だけとおくをかいま見ることができました。
結局そこに行くことはできませんでしたが、でも、ここも、とても綺麗です。

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穏やかで優しげで、澄みきった絶望。だけどこの「とおく」についての手がかりを彼女はこの本の中に沢山残してくれていて、そして僕らはいつでも、それを開くことが出来る。本が世界の、人の似姿であるなら。

どうか物語の、つづきを。