アンビリーバブル・トゥルース - ハル・ハートリー監督

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ハル・ハートリー鑑賞二作目。大傑作。これが処女作らしいけど、ありがちな詰め込み感やガチャつきは一切感じられない。それでも先に見たシンプルメンから考えると、これでもこの監督にしてはガチャついている方なのかもしれないが。

核による全ての破滅を恐れながら夢見る美しい少女と、刑務所帰りで物静かな整備工の恋。そんな二人を取り囲む色々な思惑、立場の人々。物語はどこか夢見心地のようなフワリとしたリズムで進行する。

まず何と言ってもヒロインを演じるエイドリアン・シェリーが圧倒的に可愛く、また突っ張っている思春期少女の複雑さを見事に体現していて死にそうに素晴らしい。劇中でころころ変わるファッションも完璧。89年のそれもアメリカって、まだまだ皆マイケル・ジャクソンみたいな格好していたんじゃないの?それは偏見だとしても、完全に時代を超えていると思う。男の家を訪ねるも慌ててしまって口紅がはみ出したまま必死に大人ぶって見せようとするシーンや、悶々として一人、壁に自転車をぶつけるシーンは特に良い。

なおこの映画は主役二人の恋物語でありながらストレートに二人の物語を描く場面はあまりなく、むしろ脇役達や彼らにまつわる挿話に主人公達を絡ませ、そういった断片を細かく重ねて外堀を埋めていくような進み方をするのだけれど、この脇役達がまた素晴らしい。

思春期真っ只中でややこしい娘の扱いに手を焼くマッチョなオヤジや、ヒロインと同年代だが直情径行で馬鹿丸出しの元彼、男の過去の罪に関係しているウエイトレスの複雑な感情など、登場する彼ら一人一人が作品世界の中で確かにそれぞれの呼吸をしている気配がどの場面にも満ちていて、とても豊かな奥行きをもたらしている。所々に配置されたギャグみたいなシーンも過不足無く、そして極めつけはあの終わり方。少女の幸福な結末に、現実とも幻ともつかない破滅の兆しが微かに香る。完璧。

複雑で多様なものが極めてシンプルな形に収斂しているというのは、映画に限らずあらゆる作品の在り方として理想の一つだと思うけど、この映画ではそれが達成されているように思う。BGMも素晴らしいし、改めて、なぜこんな作品が今までまともにソフト化されていなかったのか非常に疑問。ジャームッシュ風味が好きな人は勿論、最近新作が話題のウェス・アンダーソンなんかにも通じると思う。

しかし今作がこれほどの傑作だと、同じエイドリアン・シェリーが主演の次作「トラスト・ミー」も非常に観たいが、これは今回のDVD化にラインナップされていない。なにゆえ、、、


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