リリィ・シュシュの全て - 岩井俊二監督

f:id:when87:20130825002335j:plain これも夏が似合う映画だと思う岩井俊二は本作と、「花とアリス」の二本が特に好きです。

 およそイノセントという言葉で表される全ての甘さと痛みが、この映画には詰まっている。よくもまあ四十絡みのおっさんが、こんなにも中学生の視線に降りていけたものだ。あの青い時代特有の孤独の姿や閉塞感をここまで微細に描き出した映画を僕は他に知らないし、当然ながらこの様な「中学生」の手触りは、絶対に邦画でしか味わえない。

 沖縄旅行など意図的な一部を除けばとても幻想的で美しい静かな画で占められている。中でも津田詩織のグライダー場面とエンドロールは白眉。しかしこの泥臭さや重厚さとは対極にある漂泊されたかの様な映像世界は、見る人によっては上っ面だけ抜き出した様に見えて白ける最大の原因でもあるのだろうが、もともと岩井俊二という人は現実世界のエッセンスを抽出し拡大解釈するようなファンタジー作家という傾向が強い、と僕などは思っていたので、本作においてもその辺りの拒否感は生じなかったし、何よりも物語の核にリリィ・シュシュという神秘的な架空の歌手を据え、それを行き場の無い少年少女達の日常の中に織り込む事によって、その映像、ひいては物語全体の幻想性・寓話性を違和感無く見せる事に成功していると思う。

 尚、映画の設定が設定だけに肝心のリリィ・シュシュの音楽がダサいと何もかも台無しになってしまうわけだが、その点小林武史は、実は一番の功労者は彼ではないかと言う程、本当に見事な音楽を作ったと思う。salyuの掠れた歌声と、不思議な揺らぎの様な独創的且つポップな作曲。相応しいというか、ちょっとこれ以上は望めないという所まで達していて、アラベスク、飽和、回復する傷、グライド等、本当に名曲が揃い過ぎ。そういえば去年だか、限定でリリィ・シュシュとしてのライブを何回かやったみたいだけど、このクオリティのアルバムを作っておいて「映画にまつわる一回きりの企画ユニット」で終わらせるのは勿体ないと本人達や関係者もずっと思っていたのではないかな。勿論Salyuのライブでは今でも断片的に演奏されているみたいだけど。

 タイピングの演出が臭すぎる(特にエンドロール)とか星野の変化をもう少し丁寧に描いて欲しかったとか批判も色々並べられるものの、10代前半という過酷な季節、それも90年代中頃の空気の中でそれを過ごした人間にとって、もうこれ以上は描けないのではないかという一つの到達点であり、レクイエムではないだろうか。

 ちなみに劇中で津田詩織が使用している携帯に飾られた、まるで千羽鶴の様に折り重なったストラップ(一瞬流行ったなーストラップ付けまくるの)。あれは当時の蒼井優ちゃんの私物らしい。やっぱり根はギャルギャルしいコなのだと思う。

 下の動画は予告編ではなくて、エンドロール。何か、結構予告編がつべに上がってない作品て多いんだな。


Lily Chou-Chou - Glide リリイ・シュシュ- グライド - YouTube