六義園 夜

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少し前だけど、夜の六義園に月と紅葉を見に行った。毎年、紅葉の盛りの数週間はライトアップした上で夜も開園しているもの。

雨が降った翌日で空気は凍りそうに冷たかったが、それが朧な庭園の様子や冷たい月によく似合っていた。暗くぬかるんだ地面を歩いて行くと、鏡の様な池の水面、誰もいない対岸、東屋の中で寛ぐ人々の影。全く風も無く。夜の森は紅く、恐ろしく。

ただ順路でいうと最後の方の、足元をブルーのライトで照らしてスモークまで焚いていた箇所はちょっと蛇足かな。多分演出上はクライマックスなのかもしれないけど、あそこまでやると魔が消えてしまう。

人はすごく多かったけど、それでもとても静かで。夢のように綺麗だった。

銀座教文館書店

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キリスト教系書店としてお馴染みの教文館ですが、四階のグッズショップに行ったのは初めてでした。「八本脚の蝶」に記述があったこのお店でメダイ、というものを見てみたくなったため。エインカレムという、何語か分からんが綺麗な店名。

入ってみると結構ゴミゴミとした階下の書店フロアからは考えられない広々としたスペースで、老舗の威力を感じた。流石に本気のショップらしく、入り口近くに置いてあるイエスやマリア像の類からして造形がストイックで、ロフトやらハンズに置いてある 「それっぽい」物共とは一線を画す雰囲気がある。お店自体は綺麗で明るい普通の雑貨屋さんという感じで、入り辛いとかは全く無いのだけれど。

この規模のビルにしては大きめな窓が幾つも切ってある長い壁際に設えられた棚には、ずっと奥までひたすら雑貨が並んでいて、前述の通り余り雰囲気がチャラついていないそれらの物共をゆっくり見ていく。結構楽しい。一番奥の方には香炉なんかも置いてあって、ヴィヴィアンのオーブに似た形の一つはどこかで見た気がしたが、思い出せなかった。冷やかしのお代に、画像のメダイと祈りの言葉が記されたメッセージカードを購入。メッセージカードは一枚30円だった。これはもう商売というより布教価格ではなかろうか。

その後立ち寄った喫茶店にて、買ったばかりのメダイをなんとなく弄ぶ。手の平に乗せて親指でなぞる感触が驚くほどしっくりくる、200円の偶像。簡素な袋に印刷された子羊が、ゆっくりとこちらを振り向く。

THE MIRROR - 名古屋商工会館

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先週金曜の夜、銀座でTHE MIRRORと題された展覧会に行った。これは名古屋商工会館という取り壊しの決まっているビルをどうせならまるまる使って、色んなアーティストの作品を展示しようというもので、この手の試みは大体好きなのだけど案の定面白かった。

特に気に入ったのは二点。巨大な姿見のようなスクリーンにドレスを着た古い時代の白人女性がろうそくを灯したり部屋をウロウロするのが延々繰り返される映像ものと、上の方の階にあった曼荼羅の二つ。特に後者は絵画系の中では頭一つ抜けている様な印象の強さだった。抑制された色調の中で細部と全体がギリギリの、しかし奇跡の様なバランスでそこに収まっているというような。アブストラクトな抽象画とか二階にあったカラーフィールドペインティング的なものとかもろもろ、他のが悪かったわけでは決してないのだけれど。

しかし大戦の時代から建っているビルという場所に踏み入れるだけでも結構興奮した。そう考えるとあんな場所に作品を展示するのはやはり大変なのではないかという気もする。結構考えないと、簡単に場所に凌駕されるだろう。

こういう試みはいわゆる美術展に行くよりもずっとカジュアルだし、何より普通の街中に急に異空間への口が、特に目立つこともなく開いているような感じが楽しい。もっと色んな街で、散発的にあればいいのにな。

八本脚の蝶 読了

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知っていた結末とは言え、やっぱりとても悲しい。

最近この本の事を知って昨日初めて読み終えた自分には、まるでつい最近の出来事の様な気がしてしまう。ここに書かれている通り本が世界の似姿であるなら、それは勿論人間でもあるだろう。知りあったばかりのとても魅力的な人が、その出会いの喜びの矢先に消えてしまったような。

最後の方には何度も怖いと書かれていて、読みながら、深淵をのぞくときには深淵もまたこちらをのぞいているのだという有名な一節を思い出していた。きっとそこをのぞき得てしまえる者にだけ要求される代償があるのだろう。

それにしても惜しい、本当に。彼女が亡くなってからの10年間でネットや書籍やコミュニケーションのあり方も随分変わったけど、結局、どんどんいたずらに深くなる森の中で、美しい言葉や物語への導き手はより一層必要とされている気がする。

以下は最後の日の記述より引用。

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最後の魔法のおかげで世界はとても綺麗です。
私は生きている間。時々、一瞬だけとおくをかいま見ることができました。
結局そこに行くことはできませんでしたが、でも、ここも、とても綺麗です。

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穏やかで優しげで、澄みきった絶望。だけどこの「とおく」についての手がかりを彼女はこの本の中に沢山残してくれていて、そして僕らはいつでも、それを開くことが出来る。本が世界の、人の似姿であるなら。

どうか物語の、つづきを。

八本脚の蝶 - 二階堂奥歯

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穂村弘さんがどこかで紹介していたのを何の気なしに図書館で借りて今半分位まで読んだところだけど、凄い。圧倒的な読書量から来る膨大な知識を下地として、哲学、文学、絵画、服飾などに纏わる広大なイメージの森を縦横無尽に飛び回る、幻の蝶。想像力と洞察の深さに加えそれを過不足なく表現する文章力と、そこかしこに顔を覗かすチャーミングなユーモア。渋沢龍彦とか菊地成孔を初めて知った時のような衝撃。

ああでももう、あと半年分ほどの所まで読んでしまった。ここから先はきっと読むのがきつくなってくるんだろう。

どこか遠くの深い森、湖のほとり、古城の一室、寺社の境内。距離や時間を超えたあらゆる場所で、人形や邪神や絵画やコスメや香水やドレスで組まれた美しい魔法陣を、膨大な物語から抽出した呪文を駆使し踊るように操る彼女の姿を想像する。若き司祭は様々なものをそこから召喚し、遊び、そして最後には自分自身向こう側に消えてしまう。

後には一冊の本が残される。此岸に残された、物語の手がかり。

A LITTLE FABLE - ASPIDISTRAFLY

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シンガポールのユニットで、これは2011年のアルバム。最近再発盤が出て知ったのだけど、この手のアルバムでは久しぶりにはまった。突出したレベルのアートワークと、ありえないくらいハスキーな女声ボーカルが非常に良い。場末のバーのママのような貫禄ある声と、フォーキーでノスタルジックなトラックとが奇跡の融合を果たしている。schole records とかあの辺りにはまっていた頃に名前を聞いた事はあったのだけど、こんなに良いとは。もっと早く聞いてみればよかった。

主宰しているkitchen labelのHPを見ると音楽だけでなくデザイン方面の仕事も多くこなしているようで、どれを見ても凄く良いし、ついでに言うとHPも見やすい。そしてそれらのディレクションも多くはこのユニットのボーカル、エイプリル・リーが担っている。ライブ動画を見る限りかなり雰囲気のある美人であり、しかもあの歌声で、更にアート的なセンスも抜群って、神に何物も与えられている感がある。凄い。

シンガポールのシーンって全然知らないけど貿易の要で、アジアの片隅のあんな狭い地域に世界中のエリートや金持ちが集まってくるわけだから何やら洗練されていそうな、あるいはひどく歪な花が、夜な夜な咲いていそうな気もする。


LANDSCAPE WITH A FAIRY by ASPIDISTRAFLY ...

水槽、バレット・バレエ

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画像と本編は全く関係なく、以下ただの愚痴です。

先日非常にくさる出来事があって、全くそのせいというわけでもないのだけど久しぶりにたちの悪い飲み方をして二日酔いになった。といっても僕の場合は次の日に来るのではなく、飲んだその日の夜中、ガンガンに頭が痛くて眠れないというケースが多い。一人で暗い部屋の中で横たわっていると、鼓動とともに押し寄せる痛みはもうなくなってしまったものや人や、色んなものをついでの様に連れてきて、それがまた頭痛を加速し、ますます眠れなくなる。夏の夜の熱が体にじんじんとしみ込む。

一体これまで何度、こんなクソみたいな夜を過ごしてきただろうか。そしてこれからもまた、何度味わえば終わるのだろう。生きているのがとても億劫に感じる。僕には色々好きなものがあるし、世界も人も、美しく思える時もある。どうしようもなく嫌な事、醜い人間も本当に沢山みたけれど、そいつらに別に恨みも無い。きっと向こうからすれば、自分も同じようなものだろう。

とにかく今、ただただもう全てが面倒だ。このまま夜陰にまみれて誰からもどこからもフッと消えてしまいたいなどと思う。楽しい時もあるんだけどな。僕はとても独りよがりで、どうしようもなくアホだ。それは分かっている。分かっていると思う。

通勤時に乗り換えする駅に最近新しい駐輪場が出来た。結構広くて、寒々しい蛍光灯の光が整然と区画された場内を照らしている。僕はそこを使ってないのだけれど、そこですれ違うバレットバレエ出演時の真野きりなみたいな美しい女の殺し屋が、いきなり僕の頭をデリンジャーで撃ち抜いてくれないかななどと通る度に妄想する。いとも唐突に、全く理不尽に。りょうとか太田莉菜みたいな感じの人でも良いな。

要するに冷たい感じの、爬虫類顔の女性が好きなだけですが。

基本的に生きる事はしんどい。時間は何も解決せず、ただ諸々を風化させていく。僕は多分人一倍生きたいのだろう。そしてこのブログの事を誰にも言っていなくて、本当に良かったと今思っている。

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ボール - ヴァロットン

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日曜美術館で取り上げられていたヴァロットンという画家の諸作が非常に良さそうで、展覧会に行きたい。もとはスイスの人らしいけど、欧州でも長く埋もれていて再評価されて広く知られる様になったのはここ最近のことらしい。(ただ番組によると、澁澤龍彦は生前の著作の中ですでに紹介していたそうだ。流石としか言いようがない)

暗めの色調と少ない色数でもってベタっとした質感でまとめられた作品が多く、華やかさや明快さはほぼ感じられない。しかしその抑制された作品世界の静けさには心地よさと、どこか後ろ暗い様な不穏な気配が同居していて、その奇妙なバランスに何とも惹き付けられものがある。

なお番組には角田光代も出ていて上の絵を題材に短編を発表していたのだけれど、それも大体そんなようなニュアンスの作品で良かった。うつくしさや特別な親密さというものは、秘密を芯としていなければならないということ。うつくしさ、という言葉を平仮名にしているのも何だかとても納得した。これはちなみに今現在開催されている展覧会のHPで読めるそうだ。

それにしても、久しぶりに知らない画家の特集をじっくり見たけど、やっぱり絵画は凄い。一瞬一撃で受け手の感性を貫く静寂の切れ味。距離や時間に全くもって囚われないこの全能感に心地よく浸される時、どうしても音楽や映画や文学をじれったく、あるいは断片的に過ぎると感じてしまう事がある。

http://mimt.jp/vallotton/top.php

地獄でなぜ悪い - 園子温監督

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タランティーノは見たのだろうか。もし見てないなら今すぐ電話して知らせたい。
二階堂ふみちゃんにギャル服着せて刀を持たせる事と、昨今のぬるい邦画界のただ中で例え血まみれになっても俺は俺の映画を撮るのだ!という園子温監督の宣言。物語などあって無きが如し、この2つのためだけに製作されたような映画。素晴らしい。特に二階堂ちゃんのちち、、恐れ入った。彼女は最近まさに色んな現場から引っ張りだこという印象だけど、そりゃこんなの見せられたら誰だって使いたくなるだろう。こんなの、というのは無論ちちばかりではございません。


映画『地獄でなぜ悪い』予告編 - YouTube

※以下ネタバレがあります

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アンビリーバブル・トゥルース - ハル・ハートリー監督

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ハル・ハートリー鑑賞二作目。大傑作。これが処女作らしいけど、ありがちな詰め込み感やガチャつきは一切感じられない。それでも先に見たシンプルメンから考えると、これでもこの監督にしてはガチャついている方なのかもしれないが。

核による全ての破滅を恐れながら夢見る美しい少女と、刑務所帰りで物静かな整備工の恋。そんな二人を取り囲む色々な思惑、立場の人々。物語はどこか夢見心地のようなフワリとしたリズムで進行する。

まず何と言ってもヒロインを演じるエイドリアン・シェリーが圧倒的に可愛く、また突っ張っている思春期少女の複雑さを見事に体現していて死にそうに素晴らしい。劇中でころころ変わるファッションも完璧。89年のそれもアメリカって、まだまだ皆マイケル・ジャクソンみたいな格好していたんじゃないの?それは偏見だとしても、完全に時代を超えていると思う。男の家を訪ねるも慌ててしまって口紅がはみ出したまま必死に大人ぶって見せようとするシーンや、悶々として一人、壁に自転車をぶつけるシーンは特に良い。

なおこの映画は主役二人の恋物語でありながらストレートに二人の物語を描く場面はあまりなく、むしろ脇役達や彼らにまつわる挿話に主人公達を絡ませ、そういった断片を細かく重ねて外堀を埋めていくような進み方をするのだけれど、この脇役達がまた素晴らしい。

思春期真っ只中でややこしい娘の扱いに手を焼くマッチョなオヤジや、ヒロインと同年代だが直情径行で馬鹿丸出しの元彼、男の過去の罪に関係しているウエイトレスの複雑な感情など、登場する彼ら一人一人が作品世界の中で確かにそれぞれの呼吸をしている気配がどの場面にも満ちていて、とても豊かな奥行きをもたらしている。所々に配置されたギャグみたいなシーンも過不足無く、そして極めつけはあの終わり方。少女の幸福な結末に、現実とも幻ともつかない破滅の兆しが微かに香る。完璧。

複雑で多様なものが極めてシンプルな形に収斂しているというのは、映画に限らずあらゆる作品の在り方として理想の一つだと思うけど、この映画ではそれが達成されているように思う。BGMも素晴らしいし、改めて、なぜこんな作品が今までまともにソフト化されていなかったのか非常に疑問。ジャームッシュ風味が好きな人は勿論、最近新作が話題のウェス・アンダーソンなんかにも通じると思う。

しかし今作がこれほどの傑作だと、同じエイドリアン・シェリーが主演の次作「トラスト・ミー」も非常に観たいが、これは今回のDVD化にラインナップされていない。なにゆえ、、、


アンビリーバブル・トゥルース 日本国内用予告編 UNBELIEVABLE TRUTH TRAILER for ...